大地震の時の避難は法律上、強制ではありません。
日本の災害対策基本法では、避難指示に強制力がないため、個人の判断に委ねられています。
ただし、避難しないことで命の危険が高まるほか、救助活動に支障をきたす可能性もあります。
当記事では、「大地震の時の避難は強制なのか」を軸に、避難指示と命令の違い、避難しない場合のリスク、避難経路の決め方や注意点について詳しく情報を整理しています。
大地震の時の避難は強制なのかを解説
避難命令と避難指示の違いとは
避難命令と避難指示は、災害時の避難情報の段階を示すもので、意味と重みが異なります。避難指示は、災害の危険が高まっており速やかに避難行動を取るべき段階を指します。避難命令は、かつては避難勧告や避難指示のさらに上位に位置付けられていましたが、2021年5月の災害対策基本法の改正により、避難勧告が廃止され、避難指示に一本化されました。現在は「避難命令」という用語は法的に使われておらず、「避難指示」が最も強い避難情報となっています。たとえば、東京都江東区や静岡県熱海市では、土砂災害や津波警報が発令された際に「避難指示」が出され、住民に速やかな避難が求められました。混同しやすい用語ですが、最新の法改正に基づく理解が重要です。
強制力のある避難とはどういうものか
現在の日本の法制度において、災害時に発令される避難指示には強制力はありません。避難指示が出された場合でも、住民が避難を拒否したとしても法的に処罰されることはありません。これは、個人の自由意思や私有財産の保護が尊重される日本の法体系によるものです。ただし、避難を促すために自治体職員や警察官、消防隊員などが説得を行う場合があります。また、警察や消防が危険地域への立ち入りを制限する措置をとることもありますが、避難自体を強制する権限はありません。たとえば、2011年の東日本大震災時には、福島県内で放射線の影響が懸念される地域に避難指示が出されましたが、それに従わない住民への罰則は設けられていませんでした。強制力がないからこそ、自主的な避難判断が極めて重要です。
避難しない場合のリスクと責任
避難指示が出されているにもかかわらず避難しない場合、命の危険が高まるだけでなく、行政機関や救助隊に大きな負担をかけることになります。実際に、熊本地震や平成30年7月豪雨などでは、避難を拒否した住民が孤立し、ヘリコプターやボートによる救助を余儀なくされました。避難しなかったことで負傷や死亡に至ったケースも多数報告されています。また、自治体によっては避難せずに被災した場合、災害関連の公的支援の対象とならないことがあります。自己判断で避難しなかったことが、後の補償に影響する可能性も否定できません。避難情報を無視することは、自身だけでなく家族や地域全体にも深刻な影響を及ぼすリスクがあります。行政が発する避難情報には、最大限の注意を払うことが求められます。
避難経路の決め方と注意点
避難経路の決め方と家族との共有方法
避難経路を決める際は、自宅から最寄りの指定避難所までの複数のルートを事前に確認し、安全な経路を選定することが基本となります。たとえば、大阪市や横浜市では、自治体の公式サイトやハザードマップで避難所の場所や災害リスクが公開されており、これらを活用することで効率的に経路を設定できます。また、家族構成や高齢者・幼児の有無に応じた配慮も必要です。決定した避難経路は、紙に印刷して冷蔵庫など目につく場所に貼る、LINEのグループで共有するなどして、家族全員がいつでも確認できる状態にしておくことが重要です。定期的に家族で避難ルートを一緒に歩いて確認することで、災害時にも落ち着いて行動できるようになります。
避難経路で気をつけることとは
避難経路を利用する際は、地震による瓦礫や倒壊物、電柱の倒れ、ガラスの破片などに注意が必要です。特に東京都新宿区や名古屋市中区のように密集市街地では、建物の倒壊リスクが高く、細い路地や高架下を避けるルート設定が推奨されています。また、大雨による冠水が起きやすい地域では、アンダーパスや河川沿いの道を避けるべきです。夜間の避難を想定し、街灯がある明るい道を選ぶことも大切です。さらに、災害時は携帯電話の通信が遮断される可能性があるため、事前に避難経路を紙に記載して携帯しておくことが安全確保につながります。安全性だけでなく、迷いやすい交差点や標識の位置なども確認しておくと、実際の避難時に混乱を避けることができます。
避難経路に潜む危険箇所とは
避難経路には、一見安全に見えても災害時に危険となる箇所が存在します。たとえば、崖や斜面沿いの道路は地震や大雨による土砂崩れのリスクがあり、神奈川県鎌倉市や和歌山県新宮市では実際に通行止めとなるケースが報告されています。古いブロック塀の近くや電線が張り巡らされたエリアも倒壊や感電の危険があるため避ける必要があります。また、大型スーパーや駐車場のそばは、多くの人が集まりやすく混乱の元になりやすいため、避難の妨げとなる可能性があります。これらの危険箇所を事前に地図上でチェックし、家族と一緒に歩いて確認することが大切です。自治体が提供しているハザードマップを活用することで、リスクの高いポイントをより正確に把握できます。
一次避難と二次避難の違いを知ろう
一次避難と二次避難の目的の違い
一次避難とは、地震や津波などの災害発生時に、自宅やその周辺が危険と判断された場合に速やかに安全な場所へ移動することを指します。主な目的は命を守るための即時的な避難であり、公園や学校などの一時的な避難場所が対象になります。一方、二次避難は、災害によって住宅が倒壊したり生活環境が維持できなくなった後に、避難所や指定された宿泊施設などへ長期的に移る避難を意味します。たとえば、千葉県館山市では台風15号の被害後、停電や断水が長期化したため、体育館や市民センターに避難するケースが見られました。一次避難は即時的な安全確保を目的とし、二次避難はその後の生活再建を前提とした避難であるという点が大きな違いです。
それぞれの避難時に持つべき物とは
一次避難では、命を守ることが最優先となるため、最小限の持ち物に絞ることが大切です。たとえば、貴重品(現金・保険証・運転免許証)、モバイルバッテリー、懐中電灯、笛、500mlの水などが挙げられます。大阪市や仙台市では、非常持ち出し袋を常備することが推奨されており、市販品として「尾西のアルファ米」や「アイリスオーヤマの防災セット」などが活用されています。二次避難では、長期滞在に備えて衣類や常備薬、携帯トイレ、衛生用品、タオル、予備のマスク、簡易調理器具などが必要です。乳幼児がいる家庭では、粉ミルクやおむつも欠かせません。それぞれの避難段階で必要な物資をリスト化し、日頃から準備しておくことが求められます。
状況に応じた避難の判断基準
避難のタイミングを誤ると命に関わるため、気象情報や自治体からの避難指示の内容を正確に把握し、早めの行動を取ることが重要です。たとえば、東京都目黒区では地震後に火災が発生し、避難経路がふさがれるケースも想定されているため、初動対応の早さが生死を分けるとされています。一次避難が必要な場面としては、強い揺れを感じた直後や津波警報が発令されたときなどが該当します。二次避難への切り替えは、自宅が損壊した、インフラが復旧の見込みがない、または避難所での長期滞在が求められるときなどが基準となります。判断には、自身の住環境、自治体の指示、防災アプリ「NHKニュース・防災」などの情報も役立ちます。事前に基準を家族で共有しておくことが望まれます。
垂直避難とはどのような避難か
垂直避難が必要となる場面とは
垂直避難が必要となる場面は、津波や洪水などによる浸水の危険が迫っている場合です。特に、海岸や河川の近くで高台までの移動が間に合わないと判断される地域では、頑丈な建物の上層階へ避難する必要があります。たとえば、高知県黒潮町や宮城県女川町など、津波のリスクが高い自治体では、避難ビルや鉄筋コンクリート造の建物を活用した垂直避難が推奨されています。垂直避難は、水の流入を避けるための緊急的な手段であり、避難までの時間が非常に短い場合に有効です。あらかじめ最寄りの垂直避難場所を地図で確認し、家族全員でルートを共有しておくことが重要となります。
高層階に避難する際の注意点
高層階へ避難する際には、建物の構造と耐震性の確認が不可欠です。特に、津波避難ビルに指定されている建物かどうかを確認し、事前に避難先として使えるか調べておくことが大切です。東京都港区や福岡市中央区など都市部では、避難対象となるビルが行政から一覧で提供されており、防災マップで確認できます。災害発生直後にはエレベーターの使用が停止している場合があるため、階段での移動を想定し、スニーカーや懐中電灯を持参しておくと安全です。また、長時間の避難を想定し、飲料水や簡易食、携帯トイレなどの備えも必要です。風圧や余震による揺れに備え、心理的な不安への対応も意識して準備を進めることが望まれます。
垂直避難と水平避難の使い分け
垂直避難と水平避難は、それぞれの災害特性や周囲の環境によって使い分ける必要があります。垂直避難は津波や河川氾濫といった水害時に短時間で安全な高所に逃れるための手段であり、地上移動が困難な場合に効果的です。たとえば、名古屋市南区や静岡市清水区のような低地で浸水リスクが高い地域では、近隣の高層建物を使った垂直避難が推奨されています。一方、水平避難は、火災や余震、建物の倒壊などから距離を取ることを目的とし、開けた避難所や公園、学校などへの移動を指します。災害発生の種類とタイミングを正確に把握し、地域の地形や建物の状況を踏まえたうえで、適切な避難方法を判断することが生命を守るうえで重要です。
まとめ
大地震の時の避難は、法律で強制されるものではありません。
災害対策基本法では避難指示に強制力がなく、避難はあくまで個人の判断に委ねられています。
しかし、避難を怠ると命を危険にさらす可能性があるほか、行政や救助機関への負担も増します。
安全を確保するためには、正確な情報収集と冷静な避難判断が必要です。